話題のFACTFULNESS(ファクトフルネス)をABDで読んだらチンパンジーよりは賢くなれた
はじめに
ハンス・ロスリングさんの『FACTFULNESS』をABDという手法を使って読む会に誘われ、とても良かったのでアウトプットします。
FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
- 作者:ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド
- 出版社/メーカー: 日経BP
- 発売日: 2019/01/11
- メディア: 単行本
FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
- 作者:ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド
- 出版社/メーカー: 日経BP
- 発売日: 2019/01/01
- メディア: Kindle版
1年ほど前に後輩に「ABD会やるんで来てください」と言われてよくわからず参加したのが、ABDを最初に知ったキッカケでした。
それ以来いくつかの本を題材にABD会が開かれていましたが、最近は全く参加していませんでした。
そんな中、FACTFULNESSでABD会やるんで来ないかとお誘いいただいたので、参加してきました。
結論を言うと、これまでやったABD会の中で一番参加して良かったと思えるような内容の本でした。
FACTFULNESSについてだけでなく、これを機にABDにもついても紹介できたらなと思います。
ABDのすゝめ
ABDとは、 Active Book Dialogue のことです。
簡単に説明すると、1つの本を文字通り分割して複数人で読みあう手法のことです。
正確な定義はよく知らず、おそらく色々な流派(やり方)があると思うので、今回は私の周りで行われているABDについて紹介します。
ABDの進め方
- 題材となる本を物理的に章ごとに裁断します。
- 参加者は好きな章の部分を受け取ります。
- 分量に応じて1時間程度の時間制限を定めます。
- 時間内に担当章を読み、読んだ内容を紙に要約してまとめます。
- 時間が来て全員がまとめ終わっていたら、順番にプレゼンしていきます。
- 1章担当者から順番に、何が書かれていたかということを5分程度でプレゼンします。
- 1人のプレゼンが終わったら、その内容について自由に議論します。
- 全章が終われば、また全体について簡単に議論します。
ABDのメリット・デメリット
ABDの良いところは、まず、たった2時間あれば分厚い本でも通しで読んだ気になれる点です。
さらには参加者で議論もできるので、自分の中だけで閉じることがなく、世界が広がります。
基本的に1章分しか担当しないので、そこだけに集中して読むことができます。
しかも、読んだ直後には要約する必要があり、紙にまとめるので、ただ読むよりも理解が深くなります。
その紙も記録として残るので、見直すだけで内容を思い出すことができます。
ABDの良くないところは、本を物理的に裁断しないといけないのでそれなりの覚悟が必要な点です。
あとは、強いてあげるなら、議論が白熱して中々次に進めないことがある点でしょうか。
総じて、大変良い読書法だと思います。
そもそも、これまで私は小説の類しか読んでこなかったのですが、ABDを知って、1人では読まないけどABDで誰かと読むなら読みたいなと思う機会が増えました。
注意として、著者の方に還元するためにも、使う本は1冊であっても参加者は皆その本を買った方が良いかもしれません。
FACTFULNESSを読んで
やっと本題に入りました。
FACTFULNESSは、その副題にもあるように、10の思い込み(本能)をデータを基に正してくれる、そしてその本能を抑えるにはどうすればいいかを教えてくれる、そんな内容です。
10種類の本能
FACTFULNESSでは10種類の人間の本能が紹介されています。
- 分断本能
- ネガティブ本能
- 直線本能
- 恐怖本能
- 過大視本能
- パターン化本能
- 宿命本能
- 単純化本能
- 犯人捜し本能
- 焦り本能
各章では、その本能がどういうものか紹介し、その本能が働いている具体的な例をあげ、でもそんなことないでしょ?と反証し、最後にその本能を抑えるために注意すべきことを教えてくれます。
ABDでの私の担当は分断本能だったので、もちろんこの章が一番印象深かったです。
担当外の章でも、特に、ネガティブ本能/恐怖本能/過大視本能/パターン化本能の章が良かったです。
今回は特に印象的だった、ABDでの担当でもある分断本能にだけ言及しようと思います。
分断本能
分断本能とは、例えば世界には「途上国」と「先進国」があると考えてしまうように、あらゆる事柄や人を2つに分類して考えてしまう本能のことです。
なぜこのように考えてしまうかというと、人はドラマチックなことが大好きな生き物だからです。
以降の章でもドラマチックであるという話は少し出てきますが、この「ドラマチックな生き物」というのが、この本を物語っている気がします。
ドラマチックだからこそ、世界には貧乏な人と裕福な人がいて格差が大きいと考える。
ドラマチックだからこそ、メディアは悪いことばかりを伝えた方が視聴者が喜ぶと考える。
ドラマチックだからこそ、ここぞというときにこそ大きな決断をしてしまいがち。
世界には「途上国」と「先進国」があると考えるのは何がダメなのでしょうか。
FACTFULNESSでは、1人あたりが産む子供の数と子供が5歳まで生存している割合の2軸を使って、世界中の国をプロットして分布を示していました。
それだけを見ると確かに、ある境界線で途上国っぽい国と先進国っぽい国の2つにわかれているように見えます。
しかし、よくよく読み進めていくと、そのデータはかなり昔のものであることがわかります。
そして、最近のデータを使ってプロットすると、途上国と先進国にわけるなんて無謀だってことがわかります。
そのグラフは是非本で見ていただいてショックを受けてほしいというのが感想です。
とにかく、常識というかそういうもんだと思っていたことが崩れた瞬間でした。
FACTFULNESSでは、分断本能を抑えるための1つの方法として、「平均の先にある分布を知る」ということをあげています。
例えば、ある数学の試験の男女の平均点の推移があったとして、常に男子の平均点の方が女子の平均点よりも高いとします。
この状況で、男子は女子よりも数学が得意と言えるでしょうか。
平均点の推移ではなく男女の点数の分布を見てみるとそれは明らかになり、グラフ上ではその分布のほとんどが重なり合い、違いはほぼ無いということがわかります。
この程度なら、そりゃそうだろって感じですが、平均だけ見てしまうと分断本能を助長させるのでその先の分布を見た方が良いという話でした。
分断本能を抑える方法はいくつか紹介されていましたが、それらをまとめると「大半がどこに属するか考えろ」ということでした。
大半を知るとだいたいが真ん中に位置するわけで、決して2つに分断されているわけではありません。
読了後
とにかく、読んだあと*1の衝撃が大きい本だったと思います。
こういう本は懐疑的な目で読んでしまうたちなのですが、全てがデータに基づいた話なので、ショックを受ける他ありません。
そして、知識のアップデートというのは、いわゆる技術的なことだけでなく、一般常識だと思っていた全てのことについても言えるのだなと反省しました。
読んで良かったと本気で思います。
これまでのABD会の中で一番おすすめしたい本です。
各章のはじめにその本能を表した謎の絵が描かれているのですが、章の最後に「実はその謎の絵の真実はこういうことだったのだよ」と言いたげに少し加筆された絵が載っています。
こういう小ネタは好きです。
絵の一覧が載ったページもあったので是非見ていただきたいです。
少し疑問だったのは、ネガティブ本能と恐怖本能、パターン化本能と単純化本能などは、お互いに似たような話であったので、章が離れている点です。
通しで読むとなったら連続で出てきた方がわかりやすい気がするのですが、そうでもないのでしょうか。
TEDの紹介
TEDトークに著者のハンス・ロスリングさんが出たことがあって、FACTFULNESSはそれが元になっているのかなと勝手に思っています。
そのプレゼンがこれです。
これはFACTFULNESSを読んだあとに見たのですが、開始5分(プレゼンも含めると開始4分)のグラフの変化のところが、分断本能の章を読んで受けた衝撃をさらに視覚的に増加させました。
チンパンジーよりは賢くなった、そして、おわりに
FACTFULNESSには全部で10数問の質問が出てきます。
例えば、
現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?
A 20% B 40% C 60%
というものです。
これらの質問がこれまでの「常識」で考えていたら間違ってしまうものばかりで、チンパンジーでさえランダムに回答すれば正答率は33%なのに、そんなチンパンジーにすら正答率で勝てない人ばかりだ、という話が本に出てきます。
もちろん私も最初は全然答えられなかったわけですが、FACTFULNESSを読んだことでチンパンジーよりは賢くなれたかなという話でした。
こういう本に苦手意識がある方も、ABDで読んでみると短時間で終わるのでおすすめです。
*1:ABDなので正確には読んではいない